作間敏宏「 治癒 」

2016年 1/5(火)-1/17日)12:00-19:00(月休)

作間敏宏個展「治癒」について

 1995年に農業用ビニールハウスをそのまま使ったインスタレーション「治癒」を制作したとき,そこでのビニールハウスは,苛酷な外界から弱々しい生命を護る“皮膚”だったし,僕の眼はその暖かい内部に存在していたと思う.あれから20年,僕の制作にまたビニールハウスや家が現れるようになったが,そこに前景化してくる意味やストーリーも,僕の眼がある場所も,以前と変わったのがはっきりとわかる.
 そのビニールハウスの新作インスタレーションが1F展示室に,映像の新作インスタレーションが2F展示室に設置され,それぞれ独立しつつゆるやかに繋がって全体が構成される.

作間敏宏(さくまとしひろ・美術家)


倉林靖さんが 、作間敏宏個展「 治癒 」の評論文を書いて下さいました。 
月刊ギャラリー 3月号に掲載されたものです。

アート――社会を逆照射する鏡⑮
メディアと「精神のエコロジー」――作間敏宏の「治癒」

 私は専門外ではあるが大学でメディア論やメディア・アート論に類する授業も持っているので、時々、世のメディア論の趨勢はどうなっているのか、と、最新の本を読んで自らの立ち位置をアップトゥデートしていかなければならない、と感じている。最近では、今年の一月に刊行された、石田英敬『大人のためのメディア論講義』(ちくま新書)が大変参考になった。
 現代のメディア論は一般的に、人工知能方面の進歩を謳歌する一方で、進みすぎるテクノロジーとそれに連動する極端な市場原理化に対して、深刻な危惧の念を表明する、という方向にも傾いてきているようだ。そのような面から、石田のこの著作に紹介されている幾つかの概念に、興味を引かれた。ひとつは、認知科学者で人工知能の専門家でもあるハーバート・サイモンが提唱した「注意力の経済 attention economy」という概念。情報過多時代にあって、情報の受け手の注意力・意識・時間は、情報の供給側が奪い合う希少資源となっている。私たちの注意力はメディアによって刻一刻と奪われ、散漫にさせられているのだ、という。著者の石田は、こうした事態に対して、現代人は「精神のエコロジー」を保っていかなければならない、とする。また、フランスの哲学者ベルナール・スティグレールは、今日の「ハイパー産業社会」において、「文化産業が生み出す大量の画一化した情報やイメージに包囲されてしまった人間が、貧しい判断力や想像力しか手にできなくなることによる、心の貧困」を、精神のエコロジーを破壊する「象徴的貧困」だと述べている。これも重要な概念だろう。
 アーティストの作間敏宏1月5日から17日にかけて東京・千駄木の「GALLERY KINGYO」で開いた個展「治癒」を見て、今日のメディア環境と、それに向き合う人間の「精神のエコロジー」という問題について、考えさせられた。作間はここのところ一貫して、幾つかの同じタイトルと方法論による作品の展示を、少しづつ進化・深化させながら行ってきている。今回の展示は一階の空間を使ったインスタレーションと二階で投影された映像作品に分かれていた。まず二階の映像作品に言及すると、ひとつは、作間が一貫して取り組んでいる、インターネット上から膨大な量の人を写した(映した)画像を拾ってきて、それらを重ね合わせて作った、人間一般の典型的イメージを示す映像。立像の人型のイメージが、暗い水面に浮かび上がってきてまた沈み込んでいくように、おぼろげに現れては消えていく、それが延々と繰り返されていく。展示をみた私は、人間がこの世に生まれては泡のように消えてこの世から去っていく、そんな営みが映し出された、ひじょうに瞑想的な映像であるように感じられた。
 二階にあったもうひとつの映像作品は、さきに挙げた作品の両側に配された、テレビ画像の砂の嵐のようなノイズ画面が延々と映されるもので、作間によるとやはり「ネットで拾ったCGを加工した『ジャンクCG』」だ、とのこと。これも私には、世のあらゆる「ひと」や「もの」や「こと」が生起する、原子や素粒子が充満するマトリクス空間(母空間)、というふうに思えたものだった。こうして、世のあらゆる事象の投げ込まれたゴミ溜め的「ジャンク」画像から作られたこれらの映像は、この世界と人間の在りようについて観客に深く考えさせる瞑想的な作品に変容するのだ。
 いっぽう、一階に展示されたインスタレーションは、これも作間が少しづつ変化させつつ行っている作品展示で、一個一個を人間に見立てた無数の電球が光って、ビニールハウスのなかに横たわりコロニーを作っている、というものである。この作品は額縁に入れられた人物像の集合体写真群と電球とによって二階にゆるやかに繋がっていた。ビニールハウスのなかの光というイメージは、東北出身の作者の原風景から来ているものでもあり、東日本大震災以降、このひとつひとつの命というイメージは、作者にとって、より切実なものとなってきているともいう。
 ジャンク映像の連なりをみて人の生き死にの行く末を思うのも、電球をみて人の命を感じるのも、要は人間の脳内の感じ方であって、その感じ方の潜む場所、その密かな時空間を、この現代の情報のゴミの海のなかからどのように喚起させられるかが、現在のアートの力の示し所であるのだろう。それは個々人の精神の問題であるとともに、やはり集合的な「社会」を映し出し、映し返すものであるに違いない。いまの「メディアアート」の多くの作品自体は、「メディア」のありようについて人に再考させ、人を長い時間佇ませて自己の内面を見つめさせるような作用をもつものはまだまだ少ないと感じるが、本来、アートとはそういうものであり、作間の作品はそうした性格を持っているゆえに貴重だ、と私には思われるのである。




[略歴]

1957 宮城県生まれ
1982 東京芸術大学大学院修士課程修了

[展覧会]

2015
個展 [治癒] プラスワイギャラリー 大阪
[第13回アートプログラム青梅] 旧稲葉家住宅土蔵 東京

2014
個展 [治癒] 巷房2+巷房階段下 東京
[震災と表現] リアス・アーク美術館 気仙沼
[生命の連鎖・イメージの連鎖] 森鴎外記念館 東京
[アート@土澤2014] 旧花巻商工会議所東和支所・旧拓三建設 花巻
[CAF.NEBULA展] せんだいメディアテーク 仙台
[第12回アートプログラム青梅] 青梅織物工業協同組合女子更衣室 東京

2013
個展 [治癒] ギャラリー7℃ 東京
[玉響/アートフェア東京2013] 東京国際フォーラム 東京
[第11回アートプログラム青梅] 吉川英治記念館 東京

2012
個展 [治癒] 巷房1+巷房2+巷房階段下 東京
[第10回アートプログラム青梅] 青梅市立美術館 東京

2011
個展 [接着/交換] ギャラリー・プラスディー 東京
[THE RING III -TRACE-] 東京国際フォーラム・エキジビション・スペース 東京
[第9回アートプログラム青梅]  Box Ki-o-ku+青梅市立美術館 東京

2010
個展 [接着/交換] 巷房1+巷房2+巷房階段下 東京
[+PLUS TOKYO CONTEMPORARY ART FAIR 2010] 東美アートフォーラム 東京
[第8回アートプログラム青梅] Sakura Factory 東京

2009
個展 [接着/交換] ギャラリー・エクリュの森 三島
個展 [接着/交換] ギャラリー・プラスディー 東京
[第7回アートプログラム青梅] 吉川英治記念館 東京

2008
個展 [接着/交換] ギャラリー7℃ 東京
[おおがきビエンナーレ2008 / 流れる] 大垣ビル 大垣

2007
個展 [接着/交換] ギャルリー志門 東京
[第5回アートプログラム青梅] 青梅織物工業協同組合女子更衣室 東京

2006
個展 [接着/交換] 巷房+Space Kobo & Tomo+巷房階段下 東京
[さまざまな眼148 / ダイアローグ] かわさきIBM市民文化ギャラリー 川崎
[第4回アートプログラム青梅] Box Ki-o-ku 東京

2005
個展 [接着/交換] ギャラリー7℃ 東京
[光と風の庭] 愛知万国博2005 日本政府館 瀬戸
[第1回出雲・玉造アートフェスティバル] 出雲玉作史跡公園+長楽園 松江
[EARLESS / VOICELESS] ギャラリー千空間 東京

2004
個展 [接着/交換] 巷房階段下 東京
[開館10周年記念展] リアス・アーク美術館 気仙沼

2003
個展 [接着/交換] ガレリア・キマイラ 東京
個展 [接着/交換] ギャルリー志門 東京
個展 [passage] 京阪電気鉄道錦織車庫 大津
[BiCEPTUAL / EXPLORATIONS OF IDENTITY] Hammond Museum ニューヨーク
[第6回岡本太郎記念現代芸術大賞展]/特別賞受賞 川崎市岡本太郎美術館 川崎
[図鑑天国] 大阪成蹊大学芸術学部ギャラリー spaceB 京都
[DIARY] ギャラリー・ラ・フェニーチェ 大阪

2002
個展 [Adhesion/Replacement] M. Y. Art Prospects ニューヨーク
[ConversASIAN IN CAYMAN] National Gallery of the Cayman Islands 英国領ケイマン諸島
[立川国際芸術祭2002] 立川市シルバー人材センター 東京
[4空間] ギャラリー千空間 東京

2001
個展 [colony] 東京国際フォーラム・エキジビション・スペース 東京
個展 [colony] ギャラリー千空間 東京
[現代美術の手法6 / 光とその表現] 練馬区立美術館 東京

2000
個展 [colony] M. Y. Art Prospects ニューヨーク
[アートみやぎ] 宮城県美術館 仙台
[MEMORY / SPACE] ヨコハマ・ポートサイドギャラリー 横浜
[ADIEW! 20 CENTURY] アートフォーラム谷中 東京

1999
個展 [colony] アートフォーラム谷中 東京
[COMPACT DISC / V. A.] 神戸アートヴィレッジセンター 神戸
[CHIBA ART FLASH ’99 / 世紀の黎明] 千葉市民ギャラリー・いなげ 千葉

1998
個展 [colony] Newhouse Center Artist Access Gallery / Snug Harbor Cultural Center ニューヨーク
個展 [colony] Newhouse Center Project Room / Snug Harbor Cultural Center ニューヨーク
個展 [colony] ガレリア・キマイラ 東京
[光の記憶’98] ギャラリー・ラ・フェニーチェ 大阪
[VISION & DETAIL] M. Y. Art Prospects ニューヨーク

1997
個展 [治癒] アートフォーラム谷中 東京
[ART IN TOKYO No.9 /〈私〉美術のすすめ] 板橋区立美術館 東京
[光をつかむ / 素材としての〈光〉の現れ] O美術館 東京
[趨光] 大谷資料館 宇都宮
[気になる作家Vol.1/作間敏宏+小松崎広子] アートフォーラム谷中 東京

1996
個展 [さまざまな眼74 - 治癒] かわさきIBM市民文化ギャラリー 川崎
個展 [治癒] インフォミューズ 東京
[再生と記憶] 同潤会代官山アパート 東京
[フィリップモリスアートアワード1996最終審査展] 青山スパイラル+原宿クエストホール 東京
[IDENTIFICATION] 工房親 東京

1995
個展 [NOAH2000 - 治癒] リアス・アーク美術館 気仙沼
個展 [治癒] ギャラリー日鉱 東京
[玻璃の回廊] 大谷資料館 宇都宮
[MUSEUM IN METRO] アートフォーラム谷中 東京

1994
個展 [Healing] L. A. Artcore's Brewery Annex ロスアンゼルス
[IMAGES DU FUTUR '94] Old Port of Montreal モントリオール ('87も出品)
[TECHNOART] Ontario Science Centre トロント

1993
個展 [治癒] ガレリア・キマイラ 東京

1992
個展 [dark end of the garden] アートフォーラム谷中 東京
個展 [lost songs] コバヤシ画廊 東京
[SCIENCE ART EXHIBITION] セビリャ万国博'92日本館 セビリャ

1991
個展 [the lost half of the moon (and me).] ガレリア・キマイラ 東京
個展 [(I had) a strange dream of double textures.] インフォミューズ 東京
[INTERNATIONAL MAIL ART EXCHANGE SHOW] L. A. Artcore ロスアンゼルス
[はじまりの風景] 徳島文化の森21世紀館 徳島

1990
個展 [the moon behind my closed eyes.] コバヤシ画廊 東京
個展 [(I was) drawing a face on the moon.] アルティアム 福岡
[光線芸術展] 鎌倉画廊 東京
[第7回光の造形展] 札幌大通り公園 ('88, '86, '85も出品)

1989
個展 [the moon (and I) swimmin' in the sea.] コバヤシ画廊 東京
[第1回未来芸術展]/準グランプリ受賞 名古屋市科学館 名古屋
[第9回ハラアニュアル] 原美術館 東京
[第19回現代日本美術展] 東京都美術館 東京 ('85も出品)
[受胎した光たち] 141ギャラリー 仙台

1988
個展 [(I was) talkin' to the moon.] コバヤシ画廊 東京
[日本国尖端科技芸術展] 台湾省立美術館 台湾
[第17回日本国際美術展] 東京都美術館 東京 ('86も出品)
[第10回ジャパン・エンバ賞美術展] エンバ中国近代美術館 芦屋 ('86も出品)

1987
個展 [TALK TO THE MOON] コバヤシ画廊 東京
個展 [12/15 r.p.m.のアニミズム] A.P.J. グラフィック・ステーション 東京
[空間を造形しよう] 練馬区立美術館 東京
[第10回現代美術の祭典'87] 埼玉県立近代美術館 浦和
[都市の風景] Axisギャラリー+AxisギャラリーAnnex 東京

1986
[ザ・メッセージ] そごう美術館 横浜
[FROM SOUND] ストライプ・ハウス美術館 東京

1985
[第2回ハイ・テクノロジー・アート国際展 '85]/銅賞受賞 渋谷西武 東京
[JAPANESE CONTEMPORARY PAINTINGS] インド国立近代美術館 ニューデリー

[作品収蔵]

2005 colony 陽だまりハウス 北名古屋
1995 治癒 リアス・アーク美術館 気仙沼
1992 MOON WALK 大阪府 大阪
     MOON CHILD 大阪府 大阪